ঊননব্বইতম অধ্যায়: ফাঁদে পড়া ইংরেজ বাহিনী
英軍の戦車中隊長の怒号は、すぐさま八十八ミリ砲の轟音に呑み込まれた。間に合わず距離を取れなかった周囲の落下傘兵たちも、とばっちりを食うことになる……。
やがて遠方で、車体にまだ藁をまとわせたタイガー重戦車が、ゆっくりとその凶相を現した。
もし「ジェットファイア」突撃車のような代物なら、占領地の第二線守備部隊が装備していてもおかしくはない。だが、タイガー重戦車のような大殺器となれば、それは二流部隊の手にあるはずがなかった。
なぜここでドイツ軍精鋭装甲部隊と鉢合わせたのかは分からない。だが、ひとつだけ誰もが共有した理念がある。逃げろ。
走れるだけ、ひたすら走れ。
あれは最薄部でも装甲厚が八十二ミリ、しかも装甲材は当時最高品質のニッケル合金鋼だ。
先に見た三号戦車だって、第二次大戦ではかなりの戦果を挙げた。だが本当に連合軍の頭を悩ませたのは、やはりタイガーだった。名は猛々しいが、実物は亀より硬い……。
そんな怪物が、本来いるはずのない戦場に現れたのだ。英軍のシャーマンでは、ほとんどどうしようもない……ましてや落下傘兵たちに至っては、言うまでもない……。
その瞬間、走れる落下傘兵たちは逃げた。残された英軍戦車は、せいぜい一発だけ撃ってあがいたあと、乗員がすぐさま車両を捨てて逃げ出した。
この戦いは、もはや成立しない。
相手の装甲を撃ち抜けず、こちらは一発で貫かれる……。
もし野外なら、機動で距離を取ることもできただろうし、不規則な動きで敵の照準をできるだけかわすこともできたはずだ。だが、あいにく彼らは野原にいるのではない。しかも、いまは町中の道路を曲がろうとしている最中だった。
この状況のシャーマンは、例外なく動かぬ的である。撤退しなければ、あとは戦車ごとあの世行きだ。
一方そのころ、英軍の仲間を思わぬ形で窮地に追い込んだことに気づきもしない陳斌は、第二分隊を率いて手際よくヌアンナンを離脱していた。後方で集結してくる戦友たちに事情を説明しつつ、ウィンターズを探しに向かう……。
町を離れること自体は、目の前の問題を片づけるには役立つ。だが、未来の問題までは片づけられない。
「大尉、次はどう動けばいいんでしょう」
ウィンターズのそばに寄り、陳斌は胸中の疑問を口にした。
ヌアンナンの状況は不明で、ドイツ軍の待ち伏せの可能性が高い。正面から入るのは明らかに無理だ。だが、ヌアンナンを迂回するとなれば……陳斌にも、その度胸はない。
迂回すること自体は簡単だ。だが、迂回したあとどうするのか。エンスヘーデとヌアンナンの間で、ドイツ軍に挟み撃ちにされるつもりか。
戦術上の包囲網から飛び込んで、戦略上の包囲網へ突っ込むつもりか。
「撤退を思いついたなら、撤退したあとまでは考えなかったのか」
「それは……本当に考えてませんでした。俺は軍人じゃないですし。そういうのは、あなたたちが考えることだろうと思って……」
ばつが悪そうに鼻をこすり、陳斌は気まずげに笑った。
あのとき、ただならぬ気配を感じて、反射的に第二分隊へ攻撃中止と撤退準備を命じた。だが、ほかの仲間たちへの影響や、撤退後のことまでは、陳斌は本当に考えていなかった……。
「ブルールが撃たれた時点で、君は第二分隊の分隊長だ。そういうことも考えるようにならなきゃいけない」
陳斌を見やりながら、ウィンターズは少しだけ諭すように言った。
「詳しいことは、部隊がまとまってから相談しよう。先に、もし君が町の中のドイツ軍ならどう動くか、それを考えてみるといい。その発想が、解決策を見つける助けになることがある」
ドイツ軍なら、どうする?
陳斌はウィンターズの言葉に従って、ぶつぶつと考え始めた。
追撃するか。
可能性は低い。相手に追撃できる力があるなら、そもそも待ち伏せの準備など必要ないはずだ……もっとも、絶対ではない。十分な優勢を持ちながら、自軍の損害をできるだけ抑えるために伏撃を選び、正面戦闘を避けた、という可能性もある。
持久防御して援軍を待つか。
あり得る。相手の兵力が不足している、という見立てが正しければ、ヌアンナンを守り、第一〇一師団のエンスヘーデ進撃を止めることは、町内のドイツ軍にとって十分な戦功になる。
撤収するか。
可能性は低い。もし相手に抵抗の意思がないなら、今日こうした伏撃が起こることもないはずだ……。
陳斌が考え込んでいると、突然肩を強くぶつけられた。振り向けば、英軍の装甲兵の装いをした男が彼を押しのけ、目を真っ赤にしてウィンターズの襟首をつかみ、怒鳴りつけていた。
「どうしてだ! どうして突然撤退命令を出した!? お前を告発してやる、軍法会議にかけてやる! この臆病者め!」
「おい、落ち着け。いったい何があった?」
襟首をつかまれたまま、相手が味方だと分かったウィンターズは、むやみに刺激するわけにもいかない。両手を上げたまま、なだめるように言った。だが、ウィンターズが襟首をつかまれているとなれば、落下傘兵たちはもう遠慮しない。
ゲイナリーの指揮で、落下傘兵たちはそのどこか錯乱した装甲兵をすばやく取り押さえた。
「何があっただって? お前が急に落下傘兵の撤退を命じたから、俺たちだって道路で足止めされて向きを変えるしかなかったんだ! 道路でつかえたせいで、うちの中隊長は死んだんだ!」
地面に押さえつけられても、装甲兵はなおも罵声を吐き続けた。
「全部お前のせいだ! このくそ指揮官め、味方の死活なんてちっとも考えやしない! 離せ!」
装甲兵の途切れ途切れの怒鳴り声から、陳斌は何が起きたのかを悟った。
自分の判断によって、ウィンターズはE中隊に撤退を命じた。歩兵の掩護を失った戦車など、市街戦では動く標的にすぎない。階上から投げ落とされる集束爆弾でも、曲がり角から突き出される対戦車ロケットでも、あの鉄の塊の命は簡単に吹き飛ぶ。
彼らは撤退に従わざるを得なかった。だが戦車は、どうしても人間ほど自在には動けない。
とりわけ狭い道路では、装甲部隊が急に方向転換するのは最も禁物だった。古代の重騎兵と同じで、一度突撃を始めれば、急停止も進路変更も容易ではない。
無理やり馬を止めれば、ひっくり返って総崩れになる……。
だが、装甲兵としての訓練が疎かな陳斌はそのことを忘れていたし、同じく装甲兵出身ではないウィンターズも気づかなかった。
その結果、英軍戦車中隊は市街道路での転回中、ドイツ軍のタイガーに狙い撃ちにされたのだ。
待て、タイガーだと?
なぜタイガーがいる?
陳斌はぎょっとした。ということは、自分の見立ては正しかったのだ。
「大尉! 町の中に……」
「君の判断は正しい。よくやった。装甲兵の状況を見落としたのは私だ。責任は私にある」
陳斌の言葉を手で制し、ウィンターズは振り返った。
「ルッツ! 本部へ報告しろ。ヌアンナンでドイツ軍主力と遭遇した。エンスヘーデへの進撃路は遮断された。予定通りアンヘンへ進軍するのは、おそらく不可能だ」
「それと、英軍戦車中隊は損害過半、戦車は全滅……」
「我々はヌアンナン町外の南側の森へ撤退し、次の指令を待つ。あるいは、支援を待つ!」
夜、散兵壕にもたれかかって気持ちよく眠っていた陳斌は、突然、飛行機の轟音で目を覚ました。
真っ黒な夜空では、あの大きな鳥たちがどちらの陣営か判別できない。だが、すぐに……そんなことは、どうでもよくなった……。
遠く、エンスヘーデの方角で、烈しい炎がじわじわと燃え上がり始めていた。